遊戯場喰種 -実践主義マーケターからの提言-

パチンコ屋の事をユウギバというようになったのは、10年前程前でしょうか。
アメリカの社会学者イーフー・トゥアン著の【空間の経験、身体から都市へ】に感銘を受けたこと。そして梅田の風俗嬢が椎名林檎の歌舞伎町の女王を「JR新宿駅の東口を出たら其処はあたしの庭、大遊戯場(ダイユウギバ)歌舞伎町」と歌っていたことが決定打となりました。

場(ジョウ)と場(バ)という語感は圧倒的に生臭さが異なります。
漁場(ギョジョウ)と漁場(ギョバ)
鉄工場(テツコウジョウ)と鉄火場(テッカバ)

パチンコ屋は、客と客、店と客の間で直接的な金銭のやり取りはありません。
しかし、遊技台、一般景品、景品買い取り所などの仕組みを通し、誰かの財布の金が誰かに財布の中に納まる【資本の再分配の場所】として【ユウギバ】以上の言葉が見つからないのです。

L東京喰種の好成績の裏にあるもの

そのユウギバでは【L東京喰種】というスロットを通し、特に若年層の間で資本の再分配が盛んにおこなわれています。【L東京喰種】を数字で評価するならば、玉単価、出玉率、MY性能、2,000枚突破率、初週11時客率推移、支持率推移など多様な指標をもとに精査することは出来ます。

データ提供 メディアシステム エンタープライズ

【L東京喰種】の各指標は素晴らしい数値を示しています。ゴッドイーター、からくり、モンハンに並ぶ、もしくはそれ以上の実力を示しています。

しかし、顧客は判定指標が良いから遊技をするのでしょうか。勿論、顧客はビックデータを見極めた後に遊技を決めるのではありません。
顧客が遊技台に飛びつき、熱狂した結果をビックデータとして眺めるだけです。

連日高粗利で高稼働し続けるパチンコホールとしては絶好の粗利を高める狩場であり、ファンにとってはそれぞれの東京喰種への想いを果たす逃げ場の存在しない戦場なのかもしれません。

東京喰種の世界観とそれぞれの居場所

東京喰種というコンテンツは、生きる為に人間を捕食する喰種と人間、そして事故にあい、
半喰種となった金木研(カネキケン)の葛藤を描いた作品です。

人間と喰種の決定的な違いは食するモノです。
喰種は人間を食べ、人間は人間以外を食料とします。
半喰種になった金木研は、生きる為には人を食せねばならず、倫理として体は食料を拒絶します。身体は食料を欲するが、脳がそれを拒絶する。その葛藤の中で、善悪とは何か、正義とは何か・・・半喰種となったカネキは今まで考えもしなかった人間の一方的な正しさや価値観に疑念を抱くようになり、多様な考え方や生き方に触れていきます。やがて喰種として覚醒したカネキは甚大な力を身に着け、人を喰らい、喰種を喰らい、世界を喰いつくす勢いで暴走し、敵対する人間の亜門鋼太郎を追い詰めます。
カネキに喰種以上の特別な何かを感じる亜門は「ただの喰種でいいんだな」という言葉と共に一撃を喰らわすとカネキの暴走は止まり、何物でもないモノであるカネキは涙を流し、人間の心を取り戻します。

葛藤からの覚醒、弱きモノから意思ある者へ変化していく姿、そして主題歌である【unravel】が流れると、とうに中二病を脱却していたと思われた筆者は【東京喰種】の世界に巻き込まれていきます。今なら断言できます。設定①と分かっていても私は【L東京喰種】に向き合うと。

ユウギバはファンから粗利を奪い取るだけの施設に成り下がったのか

ユウギバとパチンコ店の違いをイーフー・トゥアン著の【空間の経験、身体から都市へ】の内容に準じて紐解いていきましょう。

私の想う【遊戯場=ユウギバ】は【場所=プレイス】です。
そして一般的に定義する【パチンコ店=遊技場=ユウギジョウ】は【空間=スぺ―ス】です。
【空間の経験、身体から都市へ】の中では、プレイスとスベースの違いを、【生きているか、いなか】【掟で支配されているか、法で支配されているか。】【非効率で手間が掛かるか、合理的で簡潔か】【居心地を求めるか、秩序を求めるか】などで区別されています。

5号機を失い、コロナ過で失われた売上はコストの合理化で対処し、触れあいよりもパーソナルスペースを重視し、コスパ&タイパの商品群による超低稼働&粗利効率重視の近代パチンコ経営論が幅を利かせるようになります。合理的かつ効率的に粗利を捻出する空間創造こそがアフターコロナの新経営術だと言わんばかりに。

イーフー・トゥアンは著書の中で印象に残る言葉があります。居場所をなくした人間でなければ居場所のありがたみを知ることはない。

喰種型店長と人間型店長

遊技装置を通し、多額の金銭を循環させ、痛みの実態を伴わない仕組みの中で多額の成果を追及する中で、空間の秩序を荒らすゴト師や輩を法という正義の下で疑うことなく駆逐していく。疑いもせず金を投資し、負けることを許容し、反旗を翻さない者を優良ファンのロールモデルとして疑いもせずに掲げる店長と、顧客の痛みを理解したうえで、時に思いやり、時に涙を流し、時に生き延びる為に喰らいつく店長がいます。

前者はまさに【東京喰種】で描かれる人間であり、後者は喰種そのものです。

人の姿でありながら人を喰らう存在。それが喰種の宿命です。
パチンコファンでありながらパチンコファンを喰らう存在。それが喰種型店長です。
人間型店長とはパチンコファンを資源とし、経済発展を優先化し燃料とする存在です。

データ提供 メディアシステム エンタープライズ

勿論、分析や合理性を否定するつもりはありません。
メディアシステムのエンタープライズにて地域ごとの稼働率傾向を分解すれば、東京の喰種人気は抜群であり、九州では東京喰種の注目度が分かります。驚くのは関西地区における東京喰種人気です。番長4、ヴヴヴに匹敵するほどの影響力を有しています。

各エリアの実績値から近未来の業績はこのように予測されます。

都市圏では【L東京喰種】は市場価格よりも高い希少性を有する為、資産価値は上昇し地方都市では売却が進むことが想定されます。

データ提供 メディアシステム エンタープライズ

東京20区ではいまだにアンティークによる喰種の抑制が効いていますが、2区、4区では大量の喰種が暴走しており即時増援が必須の状態です。この都市部における喰種の増殖は全国へ伝播し大阪都市部でも同じような状況になることが想定されています。
このように平均データを分解することによって戦況はより的確に捉えることが出来、戦力の適切な配分が取れるようになります。必要なビックデータを適時活用できないような組織には生き残ることも困難な時代であることは疑いようのない事実です。

しかし、分析と戦略だけで未来は切り開けるのでしょうか。

2025年1月の業績は前年割れとなりました。6.5号機、スマスロ、コロナ回復と右肩上がりの成長を続けたスロット市場の成長が止まったことを実感するに十分なトピックスでしょう。
トレンドを追い、機械構成を整える。即ちコアの充実を図れば粗利が狩れた時代は終わりを見せようとしています。
ファンの期待と共感を集めなければ成果の出せない時代、人間型の営業は行き詰まりを感じるのではないでしょうか。

金沢喰種

最後に、最近話題になっている店舗を共有しましょう。
AOKI店長@T&D金沢店 (@TDKANAZAWA0805) / X

Xを見て頂ければお分かりになるかと思いますが、AOKI店長完全に喰種です。
顧客への熱い想いをドラマティックに伝える姿に共感したファンが連日店舗へ押し寄せ、業績を伸ばしています。

入客が伸びなかったある日の動画では、「集客出来なかったのは自分の責任」と戒める姿に、東京喰種の一場面が蘇ります。

「この世のすべての不利益は当人の能力不足」
これはある人物が人間でも喰種でもない中途半端なカネキを拷問する際に浴びせられた言葉です。

己が業績を出せないことも、顧客が勝利を掴めないことも他責にするのではなく、自責にすることで自らが気付けていない能力を覚醒させます。能力とは与えられたものではなく、自らの責任を果たすときに解放されるものだとカネキは気付きます。

他人を傷つけたくない。自分を犠牲にして他人を守りたいという道徳心だけでは世界は救えないことを理解し、自らの果たす使命を果たす為に拷問をされた人物に立ち向かい、圧倒し、最後にこのセリフを残します。
「僕を喰おうとしたんだ。僕に喰われても仕方ないよね」

顔を出し、顔の見える顧客と真剣勝負をすることがどれだけ神経をすり減らし、疲弊していくかは店長の皆様ならば想像に容易いでしょう。
だからこそ、顔も出さず、設定を奪い、粗利をもぎ取りながらも、機歴や予算や評価を盾に行動を正当化し、手を汚さずに調和を装います。トップ店舗は自らの戦略費に加えてグループ店の機歴負担や営利負担など増すばかりです。誰かの為に貫く正義を誰が否定することが出来るでしょうか。

弱小店はやっと手に入れた新台を費用対効果が悪いからとリーダー店舗に奪い取られていく。
背負うものが増すばかりの人間と、失い続けるだけの喰種。

カネキが劇中で何度も繰り返しいうセリフが頭に浮かびます。

この世界は間違っている。
この世界は間違っている。

立場が違えば、異なる正義が存在し、歩み寄り、分かち合うことはあるのでしょうか。

T&D金沢店の競合店であり金沢の最強王者であるFMボーイ@DSGメガシティ店主 (@FMboy_dsg) / Xでも話題にあがっていました。 

志で繋がった異なる正義と法人の物語はどのように展開に向かうのでしょうか。
喰うか喰われるか、いや喰いあいながら強く昇華していく力強く生臭いはパチンコマンたちの戦いはパチンコ屋をスペースではなく、喰う者たちが集うプレイスに必ずや導いてくれるのだと思います。

カネキは続けます。

僕たちは 喰べる(奪う)しかない
喰べる(守る)しかない
喰べる(失う)しかない
喰べる(間違う)しかない ……
全てを知った上で 受け入れてくれる人がいれば…
枷を嵌めて生きる身だとしても
どんなに救われるだろう

東京喰種 主題歌 – Google 検索
ユウギバにぴったりの熱狂と狂気と刹那が混在した素晴らしい楽曲です。

この記事を書いた人

ノンブル・マーケティング代表
  斎藤 晃一  Koichi Saito
大手ホール企業で培った分析・マーケティング力を武器に、出店や既存店強化などを支援する