パチンコの未来は明るい -ぱちんこ開発日記-

こんにちは!某メーカーで開発してます「めんつゆ」です。
普段はサラリーマン開発者として上司の顔色を窺いつつ、スキを見て就業時間中にホールに行って僅かなお小遣いを削る非常に充実した毎日を送っています。素麵が大好物です。よろしくお願いします。

試験?保通協?適合?すごいスペック?

今回はあまり知られない試射試験、適合と不適合について書きたいと思います。

2018年の規則改正以降、ぱちんこメーカーの組合である日工組の内規改定や時短関連を中心とした規則解釈基準の変更が短い期間でいくつも行われました。
このことに加え昨年春の超韋駄天のヒットをはじめ、6 月に登場した新作牙狼の好調ぶりから代表されるように各メーカー開発者が様々なアプローチからアイデアを振り絞った結果、スペック設計の幅が一気に広がりました。

一方でTwitterなどにおいて出玉性能が高い機種が出るたび「よくこんなスペック適合した」「XX回も持ち込んだらしい」との書き込みをよく見かけます。
しかしTwitter上のいわゆるパチンコ開発系と思われるアカウントがそんなツイートをしている人ってほとんど見かけないと思いませんか?

では、はたして本当に出玉性能が高いと試射試験で適合しづらいのでしょうか?

試射試験で不適合になる理由

試射試験で不適合となる最も多い要因として、「1時間でたくさん出る」ことがほとんどです。
そして「たくさん出る」の基準は、規則で定められる通り「1時間で2.2倍以上の払い出し」です。
パチンコ機は1分で100個発射しますので1時間で6,000個発射します。
つまり10時間の試験でどの1時間を区切っても「1時間6,000個発射の2.2倍である13,200個」の払い出しが発生すると不適合となります。

しかし、仮に「1時間で10倍」出てしまっても、同じく短時間出玉上限2.2倍超えの理由として不適合となります。
このため10時間の試験中に「1時間で2.2倍の13,200個」以上払い出すどん亀性能のスペックでも「1時間10倍の60,000個」払い出す超速スペックでも、試験中にどこの1時間を区切って計測した結果1度でも2.2倍上払い出すと等しく不適合となります。

細かい計算は省略しますが「1時間の上限で落ちる」要素は一定のラインを超えると不適合に与える出玉速度の影響は安定して「上限値で落ちる」ことで不適合となるため、実は超速でも影響は軽微なのです。

ちなみに2.2倍までの払い出しには大当りでのアタッカーでの払い出しだけでなく確変中や時短中での電チューや入賞口などの払い出し全て含まれます。

ざっくりした計算例として、ゆっくり1時間丸々かけて1,500個の大当りを右打ちで5連チャンする機種(1,500×5回と電チューでの払い出し5,400個 合計12,900個)と10分で1,500個を5連チャンして残り50分は1/319で左打ちの機種(1,500×5回と電チューでの払い出し900個、通常時の払い出し2,000個 合計1時間で10,400個)と考えていただくとイメージしやすいかなと思います。
当然50分で1/319が当たる場合もありますが…。

例えば牙狼では…

サンセイさんは前々作の冴島鋼牙では右打ち中の大当りのオープニングやエンディングを引き延ばし「1時間で2.2倍」を確実に超えない時間設計をされていました。
そして真牙狼で改善し、今回の月虹の旅人では速度性能をほぼMAXまで引き上げたことから、試験に向けた方針を大きく転換したと考えられます。

月虹の旅人の場合、右打ち中は大当り出玉がオール1,500個なので、まさに先ほど例として挙げた10分で1,500個×5連チャンする機種に近いかと思います。一気に連チャンさせ残り時間は再び通常時の消化に移行し1時間あたりの払い出しを抑えるイメージです。

さらに言えば短時間上限である13,200個以上を一気に獲得するにはオール1,500個の牙狼では大当りだけで8.8連チャンする必要があります。不適合となるには大当り以外の払い出しを差し引いても約8連チャン程度継続させることが条件となります。

実際にホールで一日打った場合と想像してもらうと1日打ち切って8連チャン以上しなかった…残念ですがよく見かけますし、みなさんの体感も…ですよね。

ではどれくらいで適合するのか

機種ごとの適合率はどこのメーカーも算出しています。不適合となる要因は短時間上限以外にもあり、全ての要素をトータルすると各社の考え方もありますがハイミドルタイプの適合率では20%~40%と言われています。

パチンコ風に大当り抽選をイメージして置き換えると、試験に一度入れる1回につき、大当り確率1/2.5~1/5で適合という大当りが当選すると考えてもらうと意外と適合しそうなイメージが湧きませんか?

また、メーカーやタイトルにもよりますが一つの機種で、ほぼ同じスペックを5型式前後連続して申請することが多いので適合率20%でも5型式で適合期待値は67%程度になります。

このように「よくこんなスペック適合した」も「XX回も持ち込んだらしい」は基本的にはセールストークや尖ったスペックに箔をつけるための話だろうなと私は思っています。他の開発者も同じような考えなのではないでしょうか。

今のスペック開発の現状

今回は保通協などでの試験の話が中心で書いてみました。

ここ数年のスペックの開発自由度は、過去の歴史を振り返っても、これほどまで多様化したのは1990年代の現金連チャン機~CR機確変2回ループ時代以降25~30年ぶりだと思います。

古くからパチンコを遊技されている方はご存じかと思いますが、90年代のスペックはジャンルごとの特徴を活かしたモノが多く、1種デジパチタイプは保留連や数珠連、ハネモノは役物連、権利物やアレパチは早い吸い込みスピードを活かした爆発力、一般電役は大当り中の上乗せなど多様化し人気を博していました。

開発者として強く感じるのは、当時の面白さを超えるスペックを設計し実現可能になってきたことです。自分自身、これまで当時の多様性のあるゲーム性を超えることは難しいと考えていましたが、不可能ではなくなりました。

冒頭で述べたようにここ数年の様々なルールの見直しや新たな技術要素の進化で魅力的な機種開発が可能になってきていますので、これからももっと面白くなるパチンコ新機種の登場を期待してお待ち頂きたいと思います。