成功の可否は9割「準備」で決まる -目標達成のために必要なこと~太平洋横断したヨットマンからの提言~-

私は26歳の時、1人でヨットに乗って太平洋横断をしました。「水平線の向こうに行ってみたい」という少年時代からのあこがれが原点で、準備に3年余をかけました。

この航海以降、どのような物事も「準備こそが全て」で、準備なしに成就は困難だと感じてきました。さまざまなリスクや想定外の事態が発生する前提で準備しておく重要性は、ヨットでもビジネスでも共通しています。

ヨットには、風で走る爽快感や自然相手の醍醐味、そしてマネジメントやリスクヘッジなどが凝縮されています。準備の大切さとともに、安全で気持ちよいヨットでの体験を日常生活やビジネスに役立ててほしいと思い、ヨットを使ったセミナーを神奈川県横須賀市の海で開催し、1回に最大6名のチームビルディングやリーダーシップの醸成を図ることが狙いです。

父が友人仲間とヨットを共同所有し、幼少期からヨットセーリングを教え込まれました。大学4年生だった2003年10月、大阪から米国サンフランシスコまで約8メートルのヨットで2カ月半かけて単独で太平洋横断航海をしました。大学入学時に設定した計画に基づいてセーリング技術の練成やスポンサー探し、装備品の厳選などにあたり、入念な準備が成否の要となりました。

一方で、想定外の出来事が数多くありました。代表例は、恐怖心です。出航前には航海中に最も怖いのは、暴風雨で荒れ狂う海で過ごすことだと想像していました。しかし実際は、何度となく見舞われた暴風雨よりも無風の中で過ごす時に、とめどない恐怖を覚えました。ヨットは無風では前進できず、風がやむごとに、ただひたすら再び風が吹くのを待ちます。その間、周囲360度が水平線で他船も波もない静寂した世界で過ごしていると、あり得ないことまで考え始めます。「もう二度と風は吹かないのではないのか。このまま漂流し、いつか餓死するのか」という疑心暗鬼に陥りました。話し相手もいない単独航海は、疑心暗鬼との戦いでもありました。そうこうしていると半日後か翌日には風が吹き始め、一気に安心感を得るという繰り返しでした。

想定外の時、どう対応できるかが極めて重要です。想定外をつくらないのが理想ですが全てを予見するのは不可能で、生活でもビジネスでも、予測できないことが必ず起こります。不測の事態への対応力こそ、現代のマネジメントに求められる能力です。私は航海中、疑心暗鬼に陥るのは停滞してあれこれ考える時間があるからだと考え、自分に作業を課しました。具体的には、無風だとやりやすい船体細部の点検、帆の修繕、掃除、読書などです。作業に没頭すると余計な考えを巡らさずに済むうえに、引き続く航海に備える点検や修繕でヨットの性能を維持できる相乗効果がありました。

ブラックスワンイベントが日常的に起こることが、現代の特徴です。コロナ禍やロシアのウクライナ進行など、あらゆる不安材料が山のようにあり、考え込んで不安が先立てば、前向きな思考は停止してしまいます。やろうと思う行動をとりながら、予測できないことが生じた時は状況にあらがうことなく立ち止まり、その場で最善策を考えて再び前進することが、順風満帆となる時流のつかみ方だと思います。

この記事を書いた人

  友田 享助  Kyosuke Tomoda
1977年生まれ。幼少期からヨットセーリングに親しむ。大学4年生だった2003年の夏、大阪から米国・サンフランシスコまで小型ヨットで太平洋単独無寄港航海し、78日(約2カ月半)で太平洋横断を達成。当時、サンフランシスコの地元新聞に「Pacific Traveler」と称された。その後、新聞記者を経て、American Sailing Association(ASA)認定のセーリングインストラクター資格を取得。ヨットによるビジネス研修を行うほか、全国で講演活動などを行っている。