人事・採用イノベーション -ビジネスライター 綾香の視点-

コロナ渦でも成長を続ける企業

コロナ禍で多くの企業の業績が落ち込みましたが、それでも2020年から2022年にかけて、日本の上場企業の2割~3割の企業は過去最高益を記録しました。これはコロナ禍前からの傾向でもありますが、厳しい経営環境下にあっても、成長する企業は一定数あるものです。
伸びている企業、と言えば株価上昇のイメージが強い「テスラ」などがその代表かもしれません。テスラの自動運転ではセンサーではなく画像認識によって空間を把握しているといわれていますが、この仕組みを実現させているのが人口知能(AI)です。
日本でも2020年4月の道路交通法の改正によって、一部の自動運転が認められましたが、この先、自動運転技術はさらに高度化し、法改正も進んでいくと思われます。
AIは様々な分野でイノベーションを起こしています。その一つが「人事」で、採用や昇進など人材の評価に用いられるようになりました。

AIが「人」を評価する時代に

2016年に、ヒトラボジェイピーがAIコンピテンシー評価ツール「マシンアセスメント」を市場に投入しました。当時、私はこのシステムの説明を受けたのですが、非常に画期的な評価システムだと感じました。実際、その後に多くの企業で導入が進みました。
このシステムを一部紹介してみましょう。例えば、入社希望の人が書いた1000字程度の文章データを機械にインプットすることで、文中に含まれる思考・行動データを解析し、その人が持つコンピテンシーの種類と強さを可視化します。AI技術による人材評価システムとも言い換えられます。
人事というと、マンパワーで行う代表的な業務でした。採用の一シーンを思い浮かべるだけでも容易に想像できます。企業によっては採用のエントリーシートだけで数千件に上ることがあります。これを仕分けするだけでも大変ですが、さらに「学生時代に取り組んだこと」などに代表されるエピソードは、読み手によって評価基準がまちまちで、統一した評価軸が持ちにくいのが現状ではないでしょうか。
これらをAIに任せることで、統一した基準を持たせ「正確」かつ「スピーディー」な処理が可能になるのです。

また、昇進などに直結する人事評価にも役立ちます。ありがちなのが、営業などで業績を上げた人材を昇進させ、それが失敗に終わるケースです。名プレイヤーが必ずしも名監督にならないように、優秀な「一般社員」と「管理職」は求められる能力が異なります。過去の実績ではなく、管理職として必要な能力要素を持っているかが重要ですが、この判断は非常に難しい。また、人間にはバイアスや好き嫌いがありますから、それも正確な評価の壁になります。
一部には「機械に評価されたくない」という評価される側の不満もあるといいます。もちろん、しっかりとトレーニングをした人事のプロであれば、サーベイに時間を費やすことで、かなり正確な評価ができるはずです。機械よりも「心の通ったインタビュー」を受けたい気持ちもわかります。
それでも「全く訓練されていない評価者」「評価軸を持たない会社」「好き嫌いに流されやすい上司」に決められるより、機械のほうが、少なくとも客観的・公正なものとして受け入れやすいのではないでしょうか。

テクノロジーは「人」の仕事を進化させる

AIは「離職者予備軍」を抽出することにも役立つそうです。これまでは普段の業務での言動に、ある程度の離職の兆候が表れると言われていました。そうした分かりやすい言動があればケアすることもできるでしょう。しかし、それでも「予期せぬ退職」は後を絶ちません。
勤怠や残業の状況などをAIで分析することで、「誰が離職傾向にあるか」という予測とともに、離職の要因につながりそうな因子を見つけることができるため、その後の適切なケアやサポートにつなげるそうです。実際に人事のプロでも「問題ない」と判断した人が、離職を考えていたということが少なくないといいます。
AIを使ったコンピテンシーの抽出や可視化、公正な評価という点は、テクノロジーの力を頼った方が良さそうです。ただし、これはあくまで手段です。
どんなコンピテンシーを持つ人材を採用するのか。どんなポジションに置き、どんなキャリアを積ませるのか。こうした「組織戦略」こそ重要なのです。AIなどテクノロジーの進化が「人」の仕事を奪うと言いますが、そうではなく、テクノロジーは「人」でしかできない付加価値のある仕事をするための、ツールとして考えるべきでしょう。