「引き算」が生み出すタッチポイントとは? -ビジネスライター 綾香の視点-

バレンタインデーも過ぎ、ホワイトデーに向けての商戦が始まっていますね。バレンタインデーに愛の告白という風習は、日本のチョコレートメーカーがイメージ戦略として60年以上前に始めました。
今では女性が好きな男性に贈るという意味は薄れ、「友チョコ」「自分へのご褒美チョコ」「子供とつくるイベントチョコ」など、より自由に、気軽に楽しまれようになり、結果として市場も広がっていますね。
こうしたイベントごとは消費を促す絶好の機会となりますから、各社はその年ごとのニーズをつかみ、あの手この手で商品戦略をしかけています。

日常利用の訴求でタッチポイントを高める

そして今、こうしたイベントとは別に「いかに日常利用を促すか」も重要視されています。
つまり、消費者との「タッチポイント」を増やす取り組みです。タッチポイントとは接点のこと。広告やSNSなどの情報や、商品のパッケージ、店舗外観やスタッフのサービス、アフターフォローなどもタッチポイントになります。今回は、このタッチポイントについて、各社がどのように戦略を仕掛けてきているかを見ていきましょう。
例えば「クリスマスと言えば」というイメージが強いフライドチキンのトップチェーン。中期計画として、「日常利用の促進」を掲げています。イベント時だけでなくふだんのランチやディナーに来店してもらえるよう、バンズでチキンを挟んだサンドのセットの種類を増やしたり、「10個でいくら」といった、話題性のあるおトクなパックのフェアを高頻度で開催するなどで、より消費者の日常生活に寄り添ったブランドを目指しています。
パチンコホールでも多くの人に注目される日があるのだと思いますが、その日だけではなく、タッチポイントを増やして「日常利用」を促進していくことは大切になっていくと思います。

アプリ注文、キャッシュレス
時代を先取りしたサービス

時代を先取りしたユニークな例が、サラダの専門チェーンです。サラダの専門店は健康志向の高いニューヨークから始まり、今は世界的に流行になりつつあります。同チェーンは日本でいち早く始めたというところも先進的ですが、さらに業界でも先駆けて、アプリでの事前注文、キャッシュレスを取り入れました。またサラダなのでテイクアウトが多く、店舗も混み合うことがありません。結果としてコロナ禍の到来にも慌てることなく対応できていました。
また、これもコロナ禍の社会状況で注目が高まった、サブスクリプションや無人販売にも機敏に対応しています。こうした時代に先駆けたサービスを可能にしている、同チェーンの強力な武器が「顧客データ」です。注文はすべてアプリか、店頭の専用機器によって受け付けるため、お客一人ひとりの特性や頻度、注文内容といったデータがおのずと蓄積されるのです。
このデータは顧客それぞれに合わせた接客はもちろん、マーケティング戦略の上で大いに活用できます。例えばこのデータで、リピーターでも多くて週に1回しか利用していないことが分かったとします。これを週2回に上げることを目標に、注文システム、価格設定、販売方法などを調整・模索していくわけです。サブスクリプションや無人販売といったサービスはこの過程で生まれたサービスということになります。

「手間と時間の軽減」という、引き算の付加価値

今の時代、どの企業も多様な選択肢の中で、自分のブランドを選んでもらうためのタッチポイントをさまざまに工夫します。味や品質で差別化する、というところもあるでしょう。購入体験で付加価値を高めるところもあるでしょう。
同社の場合は、「手間と時間の軽減」で、ブランド価値を高めているように感じます。
例えばサブスクリプションでは、「毎週水曜日はこのサラダを注文」と決めておけば、自動的に届く仕組み。毎回何を食べようか迷ったり、選んだりする必要がありません。無人販売も同様に、購入の手間暇を省略するための仕組みです。
より大きなメリットが、商品にまつわる体験の価値アップです。イライラする待ち時間がなくなるので、サラダを購入し、好きな場所で気分よく食べることができます。選択を増やしていくのではなく、逆に減らしてあげる。新しい体験を提供するのではなく、不愉快な体験を減らしてあげる。さまざまなモノやサービスがあふれる時代だからこそ、こうした「引き算の発想」も、タッチポイントとして有効になってくるわけです。

皆様の事業でも引き算によって生まれる付加価値はないか。一度考えてみてもいいかもしれませんね。