百戦百勝は、善の善なる者に非ず -実践主義マーケターからの提言-

いまではある程度の方々に認められるようなコンサルタントになった私が生涯に欠かしたことのないルーティーンをご紹介いたします。
それはカステラ1番、電話は2番、3時のおやつは文明堂~という歌に合わせてひざまづき、片足をしっぽに見立て、縫いぐるみが尻尾を振るのと同時に足を左右に振るというものです。小学生の時には無邪気に尻尾を振っていたのですが、中学生になると恥じらいを感じ、正座をしながら少しだけつま先を振るという形で誤魔化し、社会人や家庭をもってもこのルーティ―ンを続けられるのか?いや続けなければならないと葛藤をしているさなか、文明堂のCMは地上波から消えていきました。

さてこのカステラの文明堂、昭和初期、このCMを展開する前に電話番号の2番を買い揃えていたことはご存じでしょうか。当時、交換手に2番と伝えれば文明堂に電話がつながるという仕組みを構築したのちに、「カステラ1番」「電話は2番」「3時のおやつは文明堂」という神がかったプロモーションを展開したのです。当時幼稚園生の私はその卓越した手法と抜かりのない事前準備に、全身をカミナリで打たれたような衝撃を覚え、無我夢中に足で作った尻尾を振っていた・・・というのは嘘です。

ただただ、あの縫いぐるみの一員となりラインダンスを踊りたかっただけなのです。

ただ勝ち続けることは最良ではない⁉

百視聴百尻尾を実現すれば”いつしか夢は叶う”と信じていた私は大人になり、百戦百勝を目指し企業成長に貢献したいと願う立派なパチンコマンになりました。無数のライバルを追いやり、稼働を追求し、賞賛を求める生活の中で『百戦百勝は、善の善なる者に非ず』という言葉に出会います。
百戦百勝する人間は最良の人間ではない??最初は負け犬の遠吠えだと思いました(笑)
しかし、ドッグは私でした。会社の財産を使い、勝利を重ね、承認欲求を満たしている私はただの縄張りを守る野良犬でした(笑)

『百戦百勝は、善の善なる者に非ず』
この言葉は『孔子の兵法』に記されており、『戦って勝つ前に戦わずして勝つ者こそが最良のリーダーだ』と解説されています。
① 戦わずして勝つ
② 戦って勝つ
③ 戦わずして負ける
④ 戦って負ける

孫子の兵法にはいまでこそ「常識」としてとらえられている大原則が記されています。
ですがあの頃の私と言えば……
① 完膚なきまで叩き潰す
② 戦って勝つ
③ もっともっと戦う
④ 世間があきれるほど戦いをやめない

企業に属し、守られしものの盛大な勘違い。穴があったら入りたいです。文明堂のCMで尻尾を一緒に振っていたことなど暴露する以上に恥ずかしいです。

称賛を求めるな、勝算を考えろ

上位役職になり、怒られる頻度が下がったM気質の方にはぜひ『孫子の兵法』をお勧めします。

『是の故に勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む』
語訳すると、勝利の軍は開戦前にまず勝利を得てそれから戦争をしようとするが、敗軍はまず戦争を始めてからあとで勝利を求めるものである。となるでしょう。

『憤(いきどお)りを以って戦いを致すべからず。利に合して動き、利に合せずして止む』
怒りによって行動してはいけない。利益があれば行動し、不利であれば撤退することである。

『而(しか)るに爵禄百金愛(おし)みて敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり』
お金を惜しんで敵情視察をしないものはバカである。

ビシッ、バシッ、しなるムチが無知という無恥を責め立て追い込まれていく感じ…淡々と貢献を考え、成果をあげ続ける紳士達には嫌ではないはずです。

戦う目的は【それにより失われる資源】以上に【得られる対価】が大きいからであり、称賛(褒められる)でも賞賛(成功報酬)でもありません。ですから、損失を極力抑え、成果の最大化が善の善であり、戦わずして勝つことを念頭に考え続けない将は戦フェチである恐れが強い。フェチは嗜好であり歓喜であるが、戦はフェチでもフェスでもありません。

勝算は?地の利は?
敵兵力は?士気は?
相手の強みは?手薄なところは?
戦わずして勝つ方法は?

このプロセスをしっかり踏めば、無駄な戦いや負ける(意味のない)戦いを避け、勝つべくして勝てる戦いに臨めるでしょう。
結果的に百戦百勝になるのですが、正確には間に【戦わない選択】が入っているため、数多くの勝利と戦わない選択、そして戦いを挑む前に後退という選択が混じった状態です。百選不敗という表現が適切なのでしょう。

いつの時代もバカが負ける

少し言い方が乱暴ではありますが、孫子が「お金を惜しんで敵情視察をしないものはバカである」というのですから、これは事実です。どの時代もバカが負けるのです。バカとは「頭が良い」「頭が悪い」ことと関係ありません。

では敵情視察とはなにか。現代の言葉で言うならば、エリアマーケティングということになります。そして弊社の専門分野がエリアマーケティングです。
ゆえに私たち(弊社&クライアント様)は無敗を貫いています。もちろん、なぜ無敗なのかは私たちが強く優れた才能を持ち合わせているからではなく、勝ち目のない戦いはしないからです。
【戦わないこと】【勇気がないこと】は異なります。

リスクマネジメントはリスク回避に目的があるのではなく、成功時のリターンの大きさにより、今とるべきリスクはなにか?を決定するために行います。

いずれにせよ、成功時のリターンの測定。成功確率と成功確率を上げる戦略策定。すべての大元なっているのがエリアマーケティングです。
もちろん、エリアマーケティングとは人口構造を調べることや、頭取りをするだけではありません。孫子の言う【勝利した後に戦う】ために、すべての情報と材料を組み合わせ、議論を活性化する起点になる仕事をすることにあります。

世の中に度々引き起こされる盛大な失敗や、会社を窮地に追い込むようなミスは決して偶然ではなく、バカだからなのです。1店舗で年間に10億円以上の赤字を出しても、それが未来の勝ちにつなげるためならば、何も問題はありません。ですが、勝ち筋も持たずに垂れ流してしまったコストならば、それはただの馬鹿です。

敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む

少しでもムダな戦いと意味のない戦い。そして己の満足を満たすだけの戦いが繰り返され、関係ない人々の平和が壊されることのない世界になりますように。

文明堂のCMをユーチューブで流しながら尻尾振ることくらいしかできませんが、世界の平和を祈りたいと思います。

この記事を書いた人

ノンブル・マーケティング代表
  斎藤 晃一  Koichi Saito
大手ホール企業で培った分析・マーケティング力を武器に、出店や既存店強化などを支援する