星野リゾートの最新鋭店
OMO7はご存じですか?星野リゾートが大阪の新今宮に今春グランドオープンした440室の巨大宿泊ホテルです。
星野リゾートには、超高級温泉旅館である「星のや」、地域の魅力を体感する上質な温泉旅館をコンセプトにした「界」、家族で楽しめるリゾートホテルに位置づけられる「リゾナーレ」というブランドがあります。いずれも一泊数万円~7万円という高級路線です。
この星野リゾートに近年ラインナップに加わったのが一泊1万円前後をビジネスホテル客をターゲットにした「OMO」シリーズです。もちろん、低価格帯のレッドオーシャンに参入するのではなく、星野リゾートらしいコンセプトで差別化を図っています。
そのOMOホテルのコンセプトは「テンションが上がる都市型観光ホテル」
観光拠点をコスパの高いビジネスホテルにする堅実派が増える一方、唯一不満として上がる声が「ホテルに帰るとテンションが落ちる」(笑)
そりゃビジネスホテルですから仕方がないことなのですが、利便性や合理性と引き換えに【非日常が薄れる】という顧客の困りごとに応えるのが「OMO」が挑戦するテーマだと星野社長は明言されていました。
大阪府西成区新今宮
この新今宮というエリアは通称「あいりん地区」と呼ばれ、いわれについてググルと、このような感じの説明が出てきます。
ここは昔からのスラム街で、かつては近づいただけで「やばい」と感じる、日本でも希有な場所だった。漢字では「愛隣地区」と書くが、ここの住人である日傭いの中には漢字が読めない者もいるため、「あいりん」とひらがな書きをする施設が多い。ただし、近隣住民はあまり「あいりん地区」とは言わない。「釜が崎」ともあまり言わず、「カマ」または「ニシナリ」が主流
わたしも十数年前からこの地区をベンチマークしているのですが、当時レンタカーで夜のニシナリを探索しているとゴミ置き場から衣服を漁るワカモノ、コンビニのトイレには覚醒剤の注射器を捨てるなの張り紙、暗闇からキラッキラッと輝くのは黒ずんだ肌を持つおっちゃんのニヤリと微笑む歯。晴天が続いた初夏の雨上がりに蒸し立つ空気に溶け込むアンモニア臭。どれもが強烈で「生」な命を感じさせる街の真正面に星野リゾートが誕生するとなれば宿泊しない理由はありません。
アップタウンとダウンタウン
私の好きな景色の一つにあいりん地区から眺める「あべのハルカス」があります。
あいりん地区は低地にあり、隣接する天王寺エリアはかなり標高差がある丘の上に位置します。その台地にそびえたつあべのハルカスは、まさに「天空の棟」であり「天へ向けて誇張し膨張するイチモツ」です。あいりん地区の1500円のドヤに泊まり、格子に覆われた小さな窓から眺めるハルカスは男の恥部を擽り、「お前は何をおっ立ててるんだ?」と煽ってきます。
そんなあいりん地区に現れたもう一つのアップタウンが星野リゾートOMOです。
人口で作られた小高い芝生の丘の向こう側にそびえ立った大きな壁。芝生テラスの入り口には通常はOMOの万人が常駐し、リゾートの住人とあいりん地区の住人、アップタウンとダウンタウンを区別しています。
価格換算できない体験価値
近隣の宿泊施設の相場はドヤで一泊500円~3000円です。ビジネスホテルで5000円前後。
星野リゾートOMOは一泊1.5万円~となり、食事つきプランで二名で泊れば5万円以上と星野リゾートとしてはリーズナブルな設定ですが、一般的には高級ホテルといっていいでしよう。
ドヤに二人で泊れば1000円ですから50倍の価格差が生まれます。
寝具、環境、付帯設備という、宿泊施設のコアサービスの差別化で差別化自体は可能ですが、2万円以上の価格設定をするためにはコアサービスだけでなく、フリンジサービスを磨く必要があります。
このフリンジサービスとはこの施設を利用しなければ得られなかった素晴らしい時間や体験です。俗にいえばプライスレスな体験は価格には換算できない。5万円のすし屋でもネタの原価には限界がありますが、すきやばし次郎の小野次郎が握った寿司は原価に対する価格の妥当性ではありません。
ですから、ハイブランドな価格はコスパではなく、精神的な満足、価値によるものです。
一泊1000円の宿がある地で、一泊5万円の商売をする。そのハードルもリスクも承知して挑戦をする星野リゾートOMOの取り組みは本当に楽しみです。
良いものをいい環境で安く売るという、競争戦略の限界
私たちの業界の大きな参入障壁としてあるのが、常識とは異なるビジネスモデルであったと私は思います。
良いモノ(新店であれば総工費40億円)、良い環境で(付帯設備、空調への潤沢な投資)、安く売る(新店であれば初年度5億前後の赤字)。
常識的に考えれば、なぜ素晴らしいモノをわざわざ赤字をして提供しなければならないのか?商売として間違っているだろ。という至極ごもっともな見解です。
しかし、それができない企業は敗れ、それを大胆に展開できる企業が常識的な商売とは比較にならないほどの莫大な収益を上げることになります。
常識では考えられないビジネスモデル。これは業界の大きな強みであり、常識的な企業の大きな参入障壁であったことは間違いないでしょう。事実を詳しくは記しませんが、パチンコを投資対象物件や利回りの良い投資として副次的に考えていた企業の多くが撤退、淘汰され、生粋のパチンコ屋が生き残っています。
そもそもなぜ良いモノを赤字でも提供し続けるのか。
それはプライスレスな体験を創る他なりません。
プライスレスな体験はコスパでも生産性でもありません。
代えがたい体験、プライスレスの体験のために無制限の投資をする。
ヒュームの情念論における、理性は情念の奴隷である状態を作り上げれるか?ということになります。
どうしても、どうしても、パチンコが打ちたい。打ちたくて仕方がない……というロイヤルカスタマーの作り方が他業種とは異なるということですね。
しかしそのビジネスモデルが、「機械を買い、玉を出すことこそが正義」と短絡的に浸透している状況は危機感を覚えます。逆に「粗利をとることが悪」という考えが良いわけでもありません。
利益をとることに誇りを感じているか
一泊千円に、一泊5万円で対抗する星野リゾートOMO。
常駐するスタッフはその価格の重さを胸に、顧客体験づくりに誇りをもって励みつづけるでしょう。
粗利とは価値です。しかし価値の伴わない粗利は糞です。
そして最近バレンシアガからとても素敵なスニーカーが発表されました。
ユーズド感をうまく表現し、特殊なダメージを与えたユニークなスニーカー。
世界限定品の価格は一足270万円。
世界のハイブランド、バレンシアガの最新コンセプトはまさに【ニシナリ】
この靴を履き、星野リゾートにステイし、ニシナリを闊歩する。
是非ナビゲーターは私にお任せいただければと思います。
そんな西成における日本最先端のパチンコ事情。ニシナリから始まる日本のトレンドを次回のコラムで解説させていただきます。
この記事を書いた人
ノンブル・マーケティング代表
斎藤 晃一 Koichi Saito
大手ホール企業で培った分析・マーケティング力を武器に、出店や既存店強化などを支援する