遠慮の塊 -実践主義マーケターからの提言-

斜陽産業が爆発的収益成長をする、ひとつの言葉

津軽衆
関東の一つ残し
遠慮の塊

これらの言葉は使われていますか?
お皿に残った最後の料理のことを指した言葉です。

津軽衆は遠慮深い津軽(青森)の人々の性格の象徴という意味があり、勇気をもって最後の一つを食べる人を津軽の英雄と称するそうです。関東の一つの残しは遠慮ではなく、最後までお皿に料理を空にしないことで見栄を張るためにあるようです。遠慮の塊は、関西人の気配りと思いやりからくる遠慮を表しているそうです。

日本人の謙虚さを象徴する行動ですが、見栄を張る関東人というのが面白いと思いませんか。美味しい料理を前に、もうお腹いっぱいだしとやせ我慢。
普段食べているのでどうぞ、とマウンティング。あこがれの都会はまるで、我慢と虚勢で着飾った大都会に相応しい人を演ずる品評会の様相です。

そこに関西人が居合わせれば「遠慮の塊いただきまーす!!」と空気を読まずに最後の一つをたいらげてしまいます。下衆な行動は場を安堵と笑いを満たすのですが、実はこれ空気を読んだ関西人の包容力だと思うのです。

カッコつけずに素直になったらええ。

インフレする関東圏の顕示的消費

※総務省の家計調査から筆者作成

ライフスタイルと価値観の違いは家計の中身にも表れます。東京都区部の家計は大阪市の家計よりも131%高い傾向にありますが物価の差が影響しているわけではありません。水光熱や食費に両社に違いはないのです。差の要因は衣服が164%、教育への支出が333%、娯楽の支出が145%とライフスタイルへの消費が大きく、輝かしく誇らしい生活を送っている自己顕示的な支出の差が両者の差であるように思えます。

この傾向はわたし達の業界においても当てはまります。

ラッキートリガー機(以下LTと表記)の導入状況と客数反応をエリア別で確認しましょう。首都圏(東京・神奈川)と関西圏(京都・大阪)、全国平均と地方圏のデータをまとめました。

東京・神奈川は全国平均よりも123%導入率が高く、京都・大阪と104%導入率が高いことが分かりました。大都会(東京・神奈川・京都・大阪)と地方圏を比較すると導入率格差は136%と大きな差となり、話題機の首都圏集中導入が色濃く出ています。

首都圏(東京・神奈川)の人口は日本の18%に対し、LTは全体の17%の導入になりますので、≪この導入格差は理に適っている≫という考え方もできます。

しかし、気になるのはLTの稼働率です。首都圏が52.9%に対して関西圏は54.6%と上回っています。需要供給の関係では首都圏に供給をしすぎということになります。

地域特性で変わるパチンコ需要

≪人口が多く、かつ娯楽への支出が高ければパチンコ需要も高い≫という仮説はLTの業績の前に成立はしません。
最新のエリア毎のパチンコ需要を確認していきましょう。

※各種ビックデータと人口統計データから筆者作成

首都圏に代表される大都市圏の人口は全人口の44%を占めますが、パチンコ業界の粗利規模は全体の36%になります。国民の5人に1人が75歳以上の後期高齢者となる2025年問題を先んじて経験を積んでいる過疎地域の人口は日本の9%に過ぎませんが、業界の粗利規模は11%と貢献しています。

首都圏は限りある時間と予算を多様な余暇で奪い合いをしています。4円パチンコの時間粗利は1,400円程度ですから二時間で3,000円程度のエンタメ産業がライバルと言えますのでシネマ、ライブ、演劇、スイーツブュッフェなど、人生を彩る多様な産業が娯楽の家計を奪い合うライバルになります。二時間で3,000円ならばソーシャルゲームの廃課金者もターゲットになるでしょう。

一方で人口流出と高齢化により将来を危ぶまれる過疎地域では、地元に残った若人の余暇としてパチンコはなくてはならない娯楽として貢献し続けています。特に10スロATの伸びは目を見張るものがあります。都会におけるパチンコ離れと過疎地域におけるパチンコ意欲の違いは単に人口を基準とした需要測定が全く意味をなしていないことを示しています。

エリア別のLTの導入実績の差に示されるように、市場の厚さ(人口の総量)は業績の厚さ(粗利規模)ではなく、エリア特性を考慮したポテンシャル測定、そこに生きる人々のウォンツとニーズを見極め、適量のバリューを提供するマーケティング感覚が未来を生きるマネージャーの必須スキルだということを感じていただけるのではないでしょうか。

今後の業界の成長のカギは相田みつをにある

需要のないものを買い漁り、足りない需要をイベントで補い、足りない粗利を顧客からむしり取り、目先の予算・家計に我慢と虚勢を張りながらチキンレースを制することがパチンコの事業だと思われているマネージャーがいるならば、大都会の真ん中、東京駅至近の東京フォーラムにある相田みつを美術館に行かれてみてください。相田の言葉は決して弱者への慰めではなく、強者になるためのバイブスとパンチラインに満ちています。

相田の紡いだ言葉の中に、「津軽衆」や「遠慮の塊」に近しい言葉が残されています。

足りないものを奪い合いながら消耗戦を重ねる、縮小と淘汰と減収の時代は店舗数5,400軒をもって終わりを遂げ「わけ合えば余る」共存と増収の時代が待っています。

互いを思いやり、分け合い、見栄を張らず、つつましやかに儲ける。競争の時代は共創の時代へ突入し、斜陽産業であれ爆発的な利益成長を遂げることができる産業であることを実感できるフェーズに突入するチャンスを秘めています。

相田みつを言葉を活用すれば。

次回はその方法を分け合いたいと思います。

この記事を書いた人

ノンブル・マーケティング代表
  斎藤 晃一  Koichi Saito
大手ホール企業で培った分析・マーケティング力を武器に、出店や既存店強化などを支援する