新入社員の離職率、どう下げる⁉ -ビジネスライター 綾香の視点-

4月になって、皆さんの会社も多くの新入社員を迎えたことと思います。

毎年、調査機関が新入社員を対象にした「働くことの意識調査」を実施していますが、毎年、何かしらの傾向・特徴が見えてきます。今年4月入社の方々は、大学生時代の多くを「コロナ禍」で過ごしています。それが自身の価値観に影響を及ぼしているかもしれませんね。
今年の結果はまだ出ていませんが、前年までの調査結果を振り返ると、大きなトレンドが見えてきます。「仕事はソコソコに、プライベートを充実させたい」。こう考える若手社員が増えています。
「どのポストまで昇進したいか」という質問もしていますが、「主任・班長」と答える人が増え、「社長」と答える人は年々減っています。体感で恐縮ですが、私が新入社員で入った20年ほど前には、同期の中にも「社長を目指す」という人が多かったように思います。

この傾向は、ポジティブなのかネガティブなのか。それは捉えようですが、やはり年配の方は「仕事への情熱がない」「帰属意識が低い」とネガティブに受け取る傾向があります。しかし、嘆いても仕方ありません。少なくとも企業側は、若者の意識は変わっていることを認識し、接していく必要があります。
一方で、新入社員の離職率は、そこまで大きく変わっていません。昔から「3年3割」と言われていましたが、厚生労働省が2020年に報告したデータでも、2019年における入社3年以内の離職者は約3割でした。離職理由も「仕事内容や条件のミスマッチ」「人間関係の問題」など、以前と変わっていません。

「寮生活」で絆を深める

私はこれまで「離職率を低減させる取り組み」、とりわけ新入社員の離職率低減に効果をあげている企業に取材してきました。正確な統計はありませんが、離職率が低い企業が取り組んでいることには、いくつか共通点があるように思います。

ひとつは「教育・研修」に力を入れている企業です。やはり人は「自分の成長」が感じられることでモチベーションが高まるのでしょう。「ジョブローテーション」も効果があるようです。様々な部署のなかから、将来の自分のキャリアが明確に描けるようになると言います。「人間関係の問題」、先輩社員などとコミュニケーションを取りやすくするための「疑似家族制度」「メンター制度」も一定の効果をあげていました。
なかでも、ユニークだったのは「社員寮」を作ったことで離職率が低くなった企業です。
あるIT企業では独自の社員寮を作りました。それまで、新サービスが生れるのは、会議室より雑談の場から生まれることが多いことが、社員寮を始めたきっかけでした。寮には、リラクゼーションルームやトレーニングルームなど社員が共有で使えるスペースを充実させました。書籍を共有する部屋も作り、本などを購入する予算も支給されます。同社は独創性を売りにIT業界をリードしていますが、こうした寮生活が、その強さを支えるひとつの要因になっているようです。

生活雑貨などの小売で店舗展開する企業も、面白い社員寮を作りました。その企業では寮の中に自社の製品を多く設置。社員たちに毎日使用してもらうことで、改善や新たな製品の開発につなげています。また、毎日生活の一部として使用することで、自社製品への愛着が高まる効果もあるそうです。
この企業では月に一度の勉強会を寮で開催。主に店長たちが講師を務めています。終了後には寮内で食事会が開かれ、リラックスした雰囲気の中で勉強会の振り返りをしたり、質問をしたりすることで、より理解を深められるのだといいます。

奨学金返済の苦労を肩代わり

最近では「奨学金返済」に対して補助を行う企業も増えてきました。これまで、企業が奨学金を借りた人に代わって奨学金を返還することは許可されておらず、従業員の奨学金の返還を支援するためには、それらを給与に追加して機関に返還するのが一般的でした。
奨学金を借りた従業員に代わって企業が返還できる新制度が2021年4月1日から導入されました。こうした制度を実施する企業では、人材不足が深刻化する中で、人材の定着や優秀な人材確保につなげたい狙いもあるようです。 
日本学生支援機構の「平成30年度 学生生活調査」によると、奨学金を受給している学生の割合は約50%。実に2人に1人が受給しています

学生たちの悩みや環境は時代によって変わっていきますから、消費者の嗜好の変化を捉えるのと同じように、情報を収集していくことが大切だと言えそうです。