消費を引出す極意とは -実践主義マーケターからの提言-

「にしおかぁ〜っ、すみこだよぉ〜」
「今年はハイミドルを買ったもん勝ちと言ったのは、どこのどいつだい? あたしだよ! 」

≪半導体の供給不足≫、≪部材供給困難≫、≪パチスロ流入≫、≪粗利前年比115%成長≫、≪資産価値沸騰≫というパワーワードが躍った2022年上半期。

市場を牽引するハイミドルを「買えよ、増やせよ、錬金せよ」という怒涛のムーヴメントは、6.5号機の躍進に紛れ、欲望のなれの果てとしてこの世から葬られるのでしょうか。

「そうさ、これからは6.5号機を買ったもん勝ちだよぉ~」
「このブタ野郎!」

ゲージ棒を持たない錬金術師

「利益を事業の目的といったのはどこのどいつだい? 」
「利益は、より良い価値を提供するために必要なコストだよ、このブタ野郎!」

と言い放ち、私を射抜いたのは、かのピーター・ドラッカーです。

利益は事業の目的ではなく、明日への燃料である。
利益を得ねば、より良い価値は提供できない。

事業の目的を≪利益≫とした企業が、交換率を下げる⇒ゲージが締まる⇒店が閉まる、という破滅の法則を発動し多くの雇用とファンを喪失したのをいくつも目のあたりにしてきました。

そもそも利益とはなにか。一般的な計算式を記します。

利益=売上(粗利)-費用

そんなことは百も承知だ。というほどに万人に浸透している計算式……創造性もなく、短絡的で陳腐な思考を引き出すこの計算式はあまり好きになれません。

「粗利を獲れ!粗利を上げなければ明日はないぞ」
「コストを削れ!経営者意識と危機感を持たなければ明日はないぞ」 

あー、よく聞く言葉ですね。

しかし、事実は違います。
価値がないから利益が上がらないのです。

買わないことを選択できる第三者が、喜んで自らの購買力と交換したいバリューがないから利益が生まれないのです。

そして近年では・・・
利益=収益-費用
と考えるケースも多いのではないでしょうか。

収益には①営業収益②営業外収益③特別収益と3つに分類されます。
この②営業外収益に「機械台の売却益」を算入するケースです。

この計算式で留意する点は「本業のバリューが曖昧になる」ことです。
パチンコ屋としてのバリューがなくとも、機械台のリセールで利益をねん出しているホールは稀にあります。

パチンコ屋を「利回りのいい投資案件」と定義するケースでは【機械台の捻出粗利+売却利益-購入コスト】は非常に重要です。
稼働よりもシェアよりも会員増減よりも①粗利②売却益③利回りの低い店舗をリセールが重要指標となるのでしょう。

リセールバリューと新台粗利を駆使しながら莫大な収益を上げたビジネスモデルは、ここ数年の間に多くの店を大幅な業績低下や撤退へと陥れたのを記憶しています。
要因は現行機に性能が劣る新台しか発表されない中で、新台による集客とリセールが大きく低下したことでした。

しかし、昨年から今後数年間は機械性能が上がり続ける時代になります。現実に一個賞球と右の性能が上昇し続けたパチンコは昨年から今年にかけて集客、粗利、リセールバリュー全てにおいて好調でした。これから先も6.5号機、スマスロ、スマパチと機械性能が上昇していくことがほぼ確定しているため、新台を中心に置いたビジネスモデルの復活も進んでいくことでしょう。
ゲージ棒を持たない錬金術師、躍動の時が近いかもしれません(笑)

ゲージ棒を持った勇敢な戦士

錬金術師の躍動を図るには、利益=収益-費用が適当でしょう。
キラキラっと魔法のスティックでいかようにも利益をコントロールできる夢のある計算式です。

では、不器用でまっすぐなゲージ棒を握りしめた生粋のパチンコ師に相応しいのはこのような計算式ではないでしょうか。

利益=顧客の消費-価値創造の費用

売上は機械台リセールでもなく、店舗売却でもなく、一過性の売上でもなく、買わないことを選択できる第三者が、喜んで自らの購買力と交換した消費です。

それと顧客の消費を生み出すに必要なバリューに必要な費用です。

もちろん、消費の理由が機械ならば、徹底して機械台というバリューに投資すればいいし、その消費理由が「さらしや」ならば投資をすればいい。もちろん消費だから、売上と粗利が上がります。「赤字を打たなければ消費されないようなものは、バリューがつくれていない状態」と言い換えれば、私たちの日々の業務(顧客への価値提供)が本当に魅力的なものであるのか?は日々チェックできるはずです。

買いやすい価格で提供することはバリューですが、赤字でなければ売らないものに価値などあるわけがない。そこにあるのは、価値あるものを提供することができない者の顧客へのエクスキューズ(言い訳)に過ぎない。

と私ではなく、知り合いの釘師が言っていました。
粗利は価値あるものを顧客に提供したものが得られる誇りだと(笑)

事実、素晴らしい体験価値を武器に高級路線でホテル再生を続ける星野リゾートは価格のディスカウントをしません。部屋が売れ残ったものをディスカウントで誤魔化したら顧客が消費しない理由から逃げることになります。

買わないことを選択できる第三者が、喜んで自らの購買力と交換して消費する理由と向き合わずに、数字だけと向き合うようになれば、また価値は損なわれます。

ケージにとらわれた企業戦士

しかし、現実はどうでしょうか。

現場では≪儲けるHOWTO≫≪儲かる先行情報≫を重視し、顧客への価値創造に焦点をあてる議論は減っているように思います。

DXが進み、業務の効率化とロスチェックが効率化される時代ですが、顧客への価値創造に対して議論する時間は増えているでしょうか。

年間計画策定の現場では価値構築戦略よりも、様々な係数・指標から算出される数値が先行することが多々あります。

情報(半導体の供給不足・部材供給困難・パチンコ粗利前年比115%成長など)とHOWTO(ハイミドル購入リセールなど)の洪水の中で情報の処理能力の高い人間がリードを取りやすい時代ですが、それは戦略の標準化を助長しています。標準化するほどに資産価値の乱高下は加速し、情弱が高値掴みをし、インフルエンサーが相場をコントロールすることになります。

そんな激しい相場の中で、年間予算という檻の中で戦う優秀な戦士には新台価格の5倍というプレミア価格戦略など手も出せるわけもなく、できうる最大限の戦術として新台戦略へ集中、需要をはるかに上回る供給(メーカー視点ではホールの需要に応えた)の結果、みんなで失敗という結果になります。

しかし、失敗に終わったのは≪収益の最大化≫であって、≪消費に値する価値創造≫ではありません。

AIの分析では「からくりサーカス」には安定的に2%のファンが価値を見出すと算出しています。導入台数が当初計画の1.5万台であれば≪神機≫認定間違いなしですが、3万台の導入では≪期待外れ≫のレッテルを張られます。しかし、この基準はあくまでホール視点。
2%のからくりを神認定しているファンへの消費を引出すバリュー、すなわち≪売れない理由を潰す≫取り組みと≪売れる理由を増やす≫取り組みにコストをかければ、中長期的には必ず業績は向上します。

今消費している顧客へのサービスを疎かにして、将来の潜在顧客へ機械投資を準備し、結局同質化に終わってしまっては市場競争力に大きな変化は得られない。

市場競争力というのは機械ラインナップや出玉のことではなく、いかに顧客の困りごとに応えられるラインナップや利益率になっているか?ということであり、それはマーケットごとに異なるのは当然ということになります。

その顧客のSOSに近いニーズにいち早く応えることがマーケティングであり、商売の本質なのではないでしょうか。

顧客のSOSに近いニーズに応えたいという欲求とそれに纏わるリスクを天秤にかけ、リスク回避を優先するようでは≪先行者の利得≫も≪成功≫もつかめないでしょう。

目の前で女性が倒れた時にAEDを使用するのか、あるいは、使用する際に胸をはだける行為でセクハラ提訴されてしまうリスクを天秤にかけて躊躇し、周りの人間の蘇生作業により回復するのを待っているのか。

その後、当人に「私が発見してずっと見守っていた」と言っても意味などなく、≪先行者の利得≫も≪成功≫もありません。※もちろん、救命は損得ではありません

困りごとを感じたならば、相手が求めている瞬間に手を差し伸べなければ意味はないのです。助けたい顧客を選んだり、助けたい時期を選んだり、見返りを計算するべきものではないはずです。

いや、計画がある以上、いつ何をどのように利益を上げるのか?
有能なビジネス戦士に与えられたミッションは過酷です。
しかし、秒刻みのスケジュールの中でも立ち止まり、今、目の前のために時間を割いてみるのもいかがでしょう。

「にしおかぁ〜っ、すみこだよぉ〜」

「わたしの衣服をはだけてAEDを使ったのはどこのどいつだい?」
「ありがとう。おかげで助かった。心臓どころか、ハートに火がついてしまったじゃないか。このゲス野郎♡ カバネリ、打ちに行くからなっ」

この記事を書いた人

ノンブル・マーケティング代表
  斎藤 晃一  Koichi Saito
大手ホール企業で培った分析・マーケティング力を武器に、出店や既存店強化などを支援する