マーケティングの目的はなにか。
ドラッカーは買わないことを選択できる第三者が、自らの貴重な時間や財と喜んで交換したい価値を創ること、と定義をしました。
企業は売上を追及する、利益を追求する組織ではなく、顧客に必要とされる価値を提供し、顧客を創造し続けることが目的であり、それがマーケティング活動だといいます。
※価値あるものを提供することで業績や収益は結果的についてくる
顧客の得るバリューが支払うコストを勝ればファンは増え、劣ればファンは離れ、失望すればファンの信頼を損ない、バッシングされ、この世界から必要とされなくなります。
しかしマーケティングの教科書には、【どうすれば顧客に必要とされるのか】【どうすれば顧客の困りごとに応えられるのか】のハウツーは記述されていません。
なにを怠れば成功しないのか?成果を出すためのプロセスは具体的に書かれているのですが、成果を出すためのハウツーは書かれていないのです。
私が当時読み漁っていた青年誌(でらべっぴんやGORO)にも【清潔感は必須、疑似体験は人肌に温めた○○。押入れの二階から飛びながら無重力で○○】などの性に関連のある知識や必要な準備は綴られていたのですが、どうすればできるのか?というハウツーに乏しかったというのが、強烈にフラッシュバックされます。
多感な時期の行き場のない感情。見つからない答え。募る想い。
いったい、どうすればいいんだーーー。
このもどかしさが、マーケティングから人を遠ざけ、分かりにくいモノにしている理由でもあり、このもどかしさが次のページをめくりたい原動力につながるのです。デラべっぴん、ではなく、顧客ロイヤルティ協会のホームページにはCSについてこのように記されています。
顧客「を」満足させる正しい方法などなく、顧客「が」満足したサービスこそが正しい世界です。しかも顧客は何が欲しいかすら分かっていません。まだ見ぬサービスと遭遇し、これこそが求めていたものだと気付き、激しく共鳴します。
マーケターに求められるのは、人への探究心とチャレンジとその代償。そしてそこから得られる悔しさと情熱です。それは事業家というよりも冒険家に近い者だと感じています。
探索されつくした世界に
唯一残された秘境の大穴『アビス』
メイド・イン・アビスというアニメをご存じでしょうか?
以下メイドインアビス第二期【烈日の黄金郷】の公式ページからイントロダクションを引用します。
隅々まで探索されつくした世界に、唯一残された秘境の大穴『アビス』。どこまで続くとも知れない深く巨大なその縦穴には、奇々怪々な生物たちが生息し、今の人類では作りえない貴重な遺物が眠っている。
「アビス」の不可思議に満ちた姿は人々を魅了し、冒険へと駆り立てた。
そうして幾度も大穴に挑戦する冒険者たちは、次第に『探窟家』と呼ばれるようになっていった。
アビスの縁に築かれた街『オース』に暮らす孤児のリコは、いつか母のような偉大な探窟家になり、アビスの謎を解き明かすことを夢見ていた。
そんなある日、リコはアビスを探窟中に、少年の姿をしたロボットを拾い・・・?
第一期の放映が2017年に放映され、劇場版を挟み、先日第二期が大絶賛の中幕を下ろしたアニメです。
第二期の冒険の途中で、深層第六層【成れ果ての村】という場所にたどり着きます。このなれ果ての村における【価値】という定義がとてもマーケティング的で面白いんです。
【成れ果て村】では住人同士がそれぞれの【価値】をやり取りすることで成立しているのですが、その【価値】とは通貨のように共通の単位のものでありません。
その人にとって大切だと思うものや好きなもの欲望の源など、得意なことなども含めて、その度合いが【価値】という概念で、これを対価として取引が行われています。
万が一、自分の価値と見合わない相手の価値を奪ったり傷つけたりした場合、【清算】というシステムが発動し、身体や身の回りの大切なものが壊されるなど、その価値を対等の償いをしなければなりません。その償いの姿はまさに凄惨であり、【価値のないもの】に対して容赦はありません。
このメイド・イン・アビスの第二期に一貫して綴られているのは【価値の選択】というテーマです。幼い子供達が退路を断ち、深層世界へ冒険を続ける理由こそが【価値】の探究であり、人が求め続け、永遠に理解できず、満たされないものを探求し続ける姿なのだと思います。
そしてこれは、【価値】という不確実なものを追いかけ、深層に嵌り、かつての自分に戻ることのできないマーケターの行きつく【成れ果て】なのでは・・・・そのような感情を重ねながら、メイドインアビスに震えるオッサンがいるということを作者のつくしあきひと先生に伝えたい笑
それぞれの清算の形
マーケティングとは買わないことを選択できる第三者が、自らの貴重な時間や財と喜んで交換したい価値を創ること
それはとても真摯で、残酷な価値創造の冒険です。
最近、閉店したパチンコ店から台や設備を搬出する場面に多く出会いますが、床に散乱するパチンコ玉と空き台フダ。道端に積み上げられたドル箱。ガラクタに埋もれながら枯れることのないイミテーションの観葉植物。その光景は生々しく、グロテスクで、凄惨な光景です。
使命を終えたパチンコ店は、自らが【価値探究】の冒険をやめ、安住の地で【成れ果て】になったのか。自らの【価値】以上の【価値】を相手から奪い(ボッタクリ)、凄惨な清算を受けたのか。
真相は深層に封じ込まれ、それを解き明かす術は閉ざされ、やがて人々の記憶から消えていくことでしょう。
マーケティングとは買わないことを選択できる第三者が、自らの貴重な時間や財と喜んで交換したい価値を創ること
価値創造の冒険は宇宙から降り注がれることもあります。
「地球に戻るためのロケット費用を…」 65歳女性が440万円被害
女性は今年6月28日、写真・動画共有SNSを通じて国際宇宙ステーションで勤務している外国人男と名乗る者と知り合いました。
宇宙ステーションから降り注ぐ愛の言葉と、帰還する為に必要なお金を要求され、440万円の詐欺にあったそうです。
宇宙から降り注ぐ【見返りを求める愛の言葉】に440万円の価値があったのか否かについては、我に返り、気づいたときに怒りがこみ上げたのならば作り上げたのは【価値】ではなく、【巧妙な手口】なのでしょう。
そう考えれば、ドラッカーもデラべっぴんもセイコウのハウツーがないのは顧客と向き合う真摯さ故と解釈できますね。
どうしたら騙せるか?のハウツーはあれど、どうすれば貢献できるか?などにハウツーがあるわけがありません。
私たちの業界は年間20兆円の売上と2.6兆円の粗利益を期待感という無形の価値によって生み出しています。
いわば、【見返りを求める射幸心】を創造する為に様々な資本投下をしながら顧客の消費を引出していきます。
その価値と対価が正しいモノだったのかどうか?はいつ訪れるかわからない清算の時を待つことにしましょう。
儲かる為のハウツーなどに振り回されると、大変な清算が待ち受けているかもしれませんね(笑)。
この記事を書いた人
ノンブル・マーケティング代表
斎藤 晃一 Koichi Saito
大手ホール企業で培った分析・マーケティング力を武器に、出店や既存店強化などを支援する