行き当たりバッチリ -目標達成のために必要なこと~太平洋横断したヨットマンからの提言~-

ヨットは風まかせの乗り物です。暴風では困りますが、前進には適度な風が必要です。マストに展開した帆に風を受けて進むことを「帆走」と言います。

ビジネスでの目標設定でも、売り上げや将来のシェア、会社規模などを想定して進むことが大切であるのと同様に帆走も、その時点での海況や風の強さ、支障となる岩場や他船との位置関係、自分の現在位置などを明確に把握しながら目的地に向かうことが、適切で安全な航海となります。

2003年にヨットで太平洋横断の単独航海をした際、出航した大阪から太平洋を北上し、偏西風がある北緯40度あたり(岩手県の沖)でサンフランシスコを目指して進路をほぼ真東に向かいました。ヨットも帆船であり、日本からサンフランシスコに向かう帆船にとって、偏西風はありがたい存在です。西から東に向かって流れる気流の偏西風が「追い風」となり、コンスタントに順風をもたらしてくれました。

しかし、時には高気圧と低気圧の位置関係で行きたい進路だった東から吹く「向かい風」もありました。ヨットは向かい風でもある程度まで対応できますが、追い風に比べるとはるかにスピードが落ちてしまいます。そんな際には先を急ぎたいという、はやる気持ちを抑え、行きたいサンフランシスコの方向に帆走できていることをヨシとしました。

風まかせとは、自然まかせということでもあります。風がやめばヨットはたちまち停滞し、暴風の中では水面で舞う木の葉のように荒れ狂う波浪にもてあそばれてしまいます。そんなヨットの上で自分の位置を見極めながら風の強弱に適切に合わせて必死に操船し、とにかく1日でも早く着きたいと思い、目指すサンフランシスコに帆走しました。

一方で、何らかのトラブルでサンフランシスコに到着できずに遭難したとしても、ヨットを放棄してでも必ず生きて帰ると心に決めていました。遭難信号を発信して救助要請し、海上保安庁や海上自衛隊、米国のコーストガードなどの救助を待つ手順を決め、何度も航海中に手順の確認に努めました。

78日の航海で目的地に到着できたので、緊急時の装備も想定手順も実際に使う場面に遭遇しないで済みました。「運がよかったからだ」ということもできますが、風まかせという自然を相手にした帆走である以上、リスクを下げることはできてもゼロにすることは不可能でした。

出航前に周到に航海の準備をし、緊急時の対応と手順、イメージワークなどを常に怠らなかったことが、最後まで生きて目的地に到着できた大きな要因だったと感じます。コロナ禍という向かい風の今、すさまじい荒波の中でも起きそうな事態を想像してシミュレーションすることは、人間にしかできない能力です。

その能力を生かして準備すれば、成功確率はかなり高まります。ただし「必ず成功できる」とは言い切れません。成功には幸運も必要だからです。しかし、「幸運は、しっかりと準備をしない者の下には舞い降りてこない」というのが私の実感です。

多くのビジネスで、進むのも退くのも必死な時世だからこそ、行き当たりばったりは禁物。一貫した準備や計画を定めたうえで、成り行きにまかせる「行き当たりバッチリ」とする舵取りが必要に思います。

 

この記事を書いた人

  友田 享助  Kyosuke Tomoda
1977年生まれ。幼少期からヨットセーリングに親しむ。大学4年生だった2003年の夏、大阪から米国・サンフランシスコまで小型ヨットで太平洋単独無寄港航海し、78日(約2カ月半)で太平洋横断を達成。当時、サンフランシスコの地元新聞に「Pacific Traveler」と称された。その後、新聞記者を経て、American Sailing Association(ASA)認定のセーリングインストラクター資格を取得。ヨットによるビジネス研修を行うほか、全国で講演活動などを行っている。