人口減少時代に勝ち筋を描けるか -実践主義マーケターからの提言-

前回、星野リゾートが大阪の新今宮にグランドオープンした440室の巨大宿泊ホテル、OMO7についてお話しました。(前回記事「利益を取ることに誇りを感じてるか?」はこちら)
オープンしたのは、高級ホテルのイメージとは程遠い「西成」。
この西成について、もう少し話を続けたいと思います。

SINGO★西成の大看板の向かいにあるパチンコ店があります。

店の壁には初代大工の源さん、弥次喜多珍道中、初代ナナシーなどが埋め込まれ、店内にはいればちょいパチ海が日本一稼働している。

このお店、数年前には客数統計システムエンタープライズで全国トップの数値を記録していたこと確認をしています。
全国一位を記録したのは朝11時のパチンコ低貸客数で、2017年12月、2018年2月にZENT名古屋北店、キコーナ尼崎店、ガイア函館店、ゴープラ入間店、ワンダー小戸店、マルハン新世界店などを抑えての第一位でした。

西成の今昔モノガタリ

では低貸パチンコの客数推移(歴史)を、エンタープライズの客数推移で確認していきます。
このエンタープライズ、私もコンサルコラムを執筆させていただいておりますが、日本のパチンコヒストリー満載です。自店統計だけでなく、全国の私たちの業の結果が詰まっておりますので、是非ご活用ください。

このエリアでは2017年⇒2021年対比で低貸市場が38%縮小(全国は20%低下)しているのが確認できます。この五年間で市場からは200人のファン人口が消失したことになります。
この200人の低貸人口というのは全国の平均的なマーケットの15万人商圏の需要になりますので一大都市が消滅したといっても過言ではありません。
次に2円パチンコに絞るとこのような数値となります。

2017年⇒2021年対比で低貸市場が75%縮小し崩壊しました。
ちなみにマルハン新世界店のニシナリ出店は2015年の出来事で二円崩壊の外的要因ではありません。

人口減少の最先端は【Akita】ではなく【Nishinsri】

エリアにおける客数低下幅が日本最大を記録する西成区通称釜ヶ崎エリア。この地区でなぜこれほどまでに客数が激減したのか?その心理に迫るべく、釜ヶ崎から半径1KM四方の人口統計データをご覧ください。

仕事をする際の私は「感情を持たない統計家」に徹しますが、人口統計を見たときに情動が揺さぶられることが稀にあります。
ひめゆり戦争があった沖縄南部の人口統計は正しく、戦争で亡くなれた男性と残された多単身女性が浮かび上がります。

この釜ヶ崎の人口統計は圧倒的に単身高齢男性世帯で支えられています。
別のリサーチでは、男性の平均寿命が日本で最も短い(71.3歳)のが西成だという結果もあります。弊社のパチンコ会員分析データによると75歳を超えると参加率が急速に低下することも分かっています。(西成における男性平均寿命はそれを下回るが)

釜ヶ崎における五カ年の人口減少率は10%です。

日本の人口減少率第一位の秋田県(2015⇒2020で6.15%減少)などいくつかのエリアで統計を取りましたが、これを超えるインパクトは得られませんでした。

【ファン人口38%減】はなぜ引き起こされたのか?

高齢化と人口減少がファン人口にもたらす影響をGISが示す推定未来予測人口から考察していきましょう。

労働者人口の衰退と75歳というパチンコファンとしてのデッドラインをボリューム世代が次々と超えていきます。

日本一のパチンコ縮小市場である釜ヶ崎で起きている現象を整理すると、

①パチンコ人口の自然減(5年で18%減少)
②75歳以上の高齢化(5年間で10%程度が超高齢化)
③エリアの人口減少(5年間で10%減少)

これが-38%低下の正体なのではないかと推測しています。

超高齢化と人口減少時代の敵は何か?

人口集中が進む首都圏、地方都市圏以外は遅かれ早かれ、10年以内にこの問題に直面します。

日本国の問題としては2025年にはすべての団塊世代が75歳を超え(パチンコ参加率も低下する)、来るべき超高齢化社会を2025年問題として提起しています。

かつての筋肉隆々で粗削りな労働者の街は30年の歳月を経て、超高齢化の街に変わりました。
生活保護年金で働かずとも最低限の収入がある一方で、加齢による気力と体力の低下は【飲む】【打つ】【買う】の生活様相に変化をもたらします。

超高齢化時代の敵は、間違いなく顧客の気力と体力の低下です。

日本のニューオリンズ、釜ヶ崎で起きた高齢化と人口減少による衰退の歴史は間もなく各地の問題として繰り返されます。新規則への入替とコロナ回復に一息する暇もなく、枯渇していく資源を奪い合う熾烈な生存競争が再び繰り広げられるのです。

西成釜ヶ崎に差し込んだ光

かつて全国トップをとったホールで西成のトリセツという小冊子を見かけました。
先住民であるおっちゃん達だから知っている街の魅力を、パチンコ店を通して紹介しようという取り組みです。

星野リゾートのご近所Mapが大阪紹介になっているのに対して、釜ヶ崎徒歩圏内に絞ったローカルMapは一味違った非日常を見せてくれるのではないでしょうか。
そして、エンタープライズを眺めながらこのエリアに差し込んだわずかな光を見つけました。コロナ以降低下が止まらなかった客数の反発です。

キッカケは蔓延防止法の解除、飲食店への給付金支給、非課税所得への10万円支給など多岐にわたりますが、右肩下がりであった客数は既存顧客の維持と新規ターゲットの流入によって回復を狙っているようです。

生き残る為に必要なことは

縮小市場の戦略を語る際にチャールズ・ダーウィンの名言が引用されることも多くあります。要約すれば、生き残る種は【強さ】でも【賢さ】でもなく【変化対応力】だ。

超高齢化社会における市場衰退は機械や出玉戦略では解決しません。
もちろん、人生はうまくいかないことを知っている人生の先輩方が、パチンコ屋に物質的欲求を満たす目的で足を運ぶとは到底思えません。
その証拠に、この地では市場価格2万円に満たない沖ドキ2が高稼働をし、16割分岐のちょいパチ海が高稼働をしています。

必要なのは顧客の生きる力に灯を絶やさぬことと、独自の文化を次世代に語り継いでいくこと。
手軽に余暇が過ごせる時代に、わざわざそこに行かなければ得ることのできない時間を創ることだと思います。

変化しなければならないのは薄利多売という正義という概念からの脱却。
パチンコ産業は装置産業から、時間と空間を売る業に進化するタイミングなのだと思います。

星野リゾートの事業計画

予約状況が芳しくない。空室が目立つなどの冷かしや、やっかみの声なども上がっていますが、総工費100億円(推定)、440室という巨大ホテルの収益は何といっても繁忙月の繁忙日の最大集客です。

私の試算では繁忙期の日売りは2,000万前後、繁忙月の売上は2.7億円程度を見越しているのではないでしょうか。パチンコ店で言えば3,000台クラスの超大型店舗と近しい事業規模です。

戦略とは目先の数字を追うのではなく、自らの勝ちパターンをしっかりと定義し、その実現に向けてしっかりと価値を創りこむことです。
20平米のシモンズのクイーンベットの部屋を5000円で貸し出してはいるが、稼働率の低い某新築ホテルには勝ち目はないでしょう。パチンコ店で言えば新台を買い、玉を放出するが稼働は下がり続ける店に未来はないのと一緒です。共通することは事業の勝ちパターンが描かれていないことです。

来るべき2025年問題、パチンコファンの大離反時代にそなえ、貴社の勝ちパターン。日本の最先端ニシナリで、ホルモンを噛みしめながら考えてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

ノンブル・マーケティング代表
  斎藤 晃一  Koichi Saito
大手ホール企業で培った分析・マーケティング力を武器に、出店や既存店強化などを支援する